むくみがなかなか引かない。がんの治療後から腕や脚が腫れている。そんな悩みはありませんか?
それは「リンパ浮腫」かもしれません。
リンパ浮腫は、かつては医療者の間でも扱いが難しい疾患でした。しかし近年、日本形成外科学会、日本リンパ浮腫学会をはじめとする専門学会が診療ガイドラインを整備し、正しい診断と治療の重要性が広く認識されるようになっています。
日本形成外科学会 (JSPRS)のリンパ浮腫ガイドライン、日本リンパ浮腫学会 (JLES)のガイドライン(2018年)がウェブで公開されています。
この記事では、リンパ浮腫とはどんな疾患なのか、どのように診断されるのか、日常でできることや最新の外科的治療まで、全体像を俯瞰できるようにまとめました。
✍️ この記事を書いた人
Dr.オーラ
形成外科専門医(日本形成外科学会)|臨床経験15年以上
大学病院で形成外科・美容外科医として勤務。忙しい外来では話しきれないプラスアルファを、科学的根拠にもとづいて発信しています。
リンパ浮腫とはどんな病気か
リンパ浮腫は、リンパ管やリンパ節の機能が障害され、リンパ液が組織内にたまることで生じる慢性的な浮腫(むくみ)です。
通常、体の組織に浸み出した水分はリンパ管に回収され、最終的に鎖骨の下で静脈に流れ込みます。この流れが障害されると、皮下組織にリンパ液が蓄積し、腕や脚が慢性的にむくんだ状態になります。
一般的なむくみ(心臓・腎臓・静脈疾患など)とは異なり、リンパ浮腫は放置すると徐々に悪化しやすく、皮膚の硬化(線維化)や感染(蜂窩織炎)を繰り返しやすいという特徴があります。
リンパ浮腫の種類:原発性と続発性
リンパ浮腫には大きく2種類があります。
原発性リンパ浮腫
生まれつきリンパ管やリンパ節の発育に異常があるタイプです。10代から20代にかけて発症することが多く、下肢に多くみられます。原因が特定しにくいことも少なくありません。
続発性リンパ浮腫
何らかの疾患や治療によってリンパ管・リンパ節が障害されるタイプです。日本で最も多いのは、がんの治療後(術後・リンパ節郭清後・放射線照射後) に生じるものです。
とくに多い原因疾患として以下があります。
- 乳がん治療後:腋窩リンパ節郭清による上肢のリンパ浮腫
- 婦人科がん(子宮がん・卵巣がん)治療後:骨盤内リンパ節郭清による下肢のリンパ浮腫
- 前立腺がん・直腸がん・悪性黒色腫治療後:同じく骨盤内郭清などによる下肢への影響
また、タキサン系薬剤の使用や放射線照射もリンパ浮腫の発症リスク因子として知られています。

続発性リンパ浮腫は、がんを治療したあとに生じる「後遺症」です。決して珍しくなく、一定の割合で発症しうるものとして、術前から患者さんに情報提供しておくことが大切だと私たちは考えています。
リンパ浮腫の重症度分類(ISL病期分類)
リンパ浮腫の程度は、国際リンパ学会(ISL)の病期分類が国際的に広く使われています(2023年版コンセンサス文書)。
ステージ0(潜在期)
リンパ管の輸送能力は低下しているが、まだ見た目のむくみは現れていない段階です。自覚症状がないため見逃されやすく、数ヶ月〜数年後にむくみとして顕在化することがあります。
ステージⅠ(初期)
指で押すとへこむ「圧痕性浮腫」が現れます。患肢を高く上げると軽減しやすく、組織の線維化はまだ起きていない段階です。
ステージⅡ(中等期)
患肢を上げるだけでは浮腫が改善しにくくなります。皮下組織の線維化が始まり、触れると硬くなってくることがあります。ステージⅡ後期には、圧迫してもへこまない「非圧痕性浮腫」へと変化します。
ステージⅢ(重症期)
著明な皮膚の肥厚・硬化・過角化・乳頭状増殖などを伴います(象皮病様変化)。リンパ小疱やリンパ漏が生じることもあります。日常生活への影響も大きく、より包括的なケアが必要になります。
なお、ステージⅠ〜Ⅲは重症度によってさらに「軽度(患肢体積20%未満の増加)」「中等度(20〜40%)」「重度(40%超)」と細分されることもあります。
リンパ浮腫の診断方法
問診と視診・触診
むくみの始まりの時期、左右差の有無、既往歴(とくにがん治療歴)などを確認します。触診では皮膚の質感・硬さ・圧痕性の有無を評価します。
周径測定
患肢と健肢を複数箇所で測定し比較します。シンプルながら経時変化を追うのに重要な方法です。とくに婦人科領域では両側下肢に発症することもあるため、治療前から定期的に記録しておくことが重要とされています。
リンパシンチグラフィ
放射性同位体を皮下に注射してリンパ液の流れを画像化する検査です。日本形成外科学会の診療ガイドライン(形成外科診療ガイドライン2021年版)では、リンパ浮腫の評価に有用とされています。
ICGリンパ管造影(インドシアニングリーン蛍光リンパ管造影)
蛍光薬剤(ICG)を皮下注射し、近赤外線カメラでリンパ管の流れをリアルタイムに可視化する検査です。侵襲が少なく、LVAの術前評価にも活用されます。ガイドラインでリンパ浮腫評価への有用性が認められています。
バイオインピーダンス法・超音波検査・MRI
組織内の水分量や皮膚・皮下組織の変化を評価するために用いられます。いずれもガイドラインでその有用性が検討されており、診断精度の向上に寄与しています。
日常生活でできるリンパ浮腫の管理
リンパ浮腫は完治が難しいことも多いですが、正しいセルフケアと生活習慣で症状を安定させることは十分に可能です。
スキンケア・感染予防
皮膚のバリアを守ることが重要です。乾燥・傷・虫刺されは蜂窩織炎(皮膚の感染症)につながりやすいため注意します。保湿をしっかり行い、白癬菌感染(水虫)があれば早めに皮膚科で治療することも大切です。
体重管理
肥満はリンパ浮腫の発症リスクや症状悪化に関わる因子として知られています。ガイドラインでも「体重管理がリンパ浮腫の発症率を下げる、あるいは浮腫を軽減する可能性がある」として取り上げられています。
適度な運動
ウォーキングなどの有酸素運動や、筋肉の収縮を利用した運動はリンパの流れを促すうえで有益とされています。弾性着衣を着用した状態での運動が基本です。ガイドラインでも「リンパ浮腫のリスクがある患者への運動は発症予防の一環として有用である可能性がある」として検討されています。
生活上の注意点
患肢への採血・点滴・血圧測定、感染、高温環境(サウナ・長風呂)、長時間のフライトなどは、リンパ浮腫の発症・悪化につながる可能性があるとして、ガイドラインでも生活関連因子として取り上げられています。ただし過度に神経質になる必要はなく、担当医と相談しながら適切に管理することが大切です。
保存的治療の基本:複合的理学療法(CDT)
リンパ浮腫の治療の基本は「複合的理学療法(CDT:Combined Decongestive Therapy)」です。以下の要素を組み合わせて行います。
圧迫療法
弾性着衣(弾性スリーブ・弾性ストッキング)や弾性包帯による圧迫は、保存的治療の根幹です。ガイドラインでも続発性リンパ浮腫に対する標準的な治療として推奨されています。手術後のケアにも欠かせません。
用手的リンパドレナージ(MLD)
専門の技術を持つセラピストが行う手技で、リンパの流れを促進します。医療施設での専門的な施術が中心です。
運動療法
弾性着衣を着用した状態での運動が基本です。筋肉の収縮がリンパの流れを助けます。
スキンケア
感染予防と皮膚状態の維持のために欠かせません。

患者さんから「自分でできるマッサージを教えてほしい」とよく聞かれます。セルフリンパドレナージ(SLD)は自宅で実践しやすいケアですが、最新のガイドラインでは上肢・下肢ともに有効性を示す科学的根拠が十分でないと評価されています。セルフケアとして取り入れる場合は、専門家に確認しながら行うようにしましょう。治療の基本はあくまで圧迫療法であり、体重管理や運動など根拠のある取り組みを優先することが大切です。
外科的治療の選択肢
保存的治療を十分に行っても改善が乏しい場合、または蜂窩織炎を繰り返す場合には、外科的治療が検討されます。
LVA(リンパ管静脈吻合術)
顕微鏡を使い、直径0.3〜0.5mm程度の細いリンパ管と皮下静脈をつないでバイパスを作る手術です。局所麻酔でも施行でき、皮膚切開が小さいため体への負担が比較的少ない治療法です。健康保険の対象として認められています。
日本形成外科学会の診療ガイドライン(形成外科診療ガイドライン2021年版)では、上肢・下肢の続発性リンパ浮腫に対してLVAは有効と位置づけられています。蜂窩織炎の頻度低下や患肢のQOL改善が期待できますが、効果には個人差があります。また、術後も弾性着衣による圧迫療法を継続することが原則です。
病期が進行してリンパ管自体が変性していると効果が限られる場合もあり、適応はICGリンパ管造影やリンパシンチグラフィで評価したうえで判断されます。
血管付きリンパ節移植術(VLNT)
健常なリンパ節を別の部位から採取し、患肢に移植することでリンパ液の排出機能を補う手術です。ドナー部の合併症(医原性リンパ浮腫など)については術前に十分な説明と評価が必要であり、ガイドラインでも「効果は期待できるが、ドナー部の合併症を考慮して手術を行うべき」とされています。LVAと組み合わせて行われることもあります。
脂肪吸引術
長期のリンパ浮腫では皮下に脂肪組織が蓄積することがあります。この余剰組織を吸引することで、患肢の周径を縮小させる方法です。ガイドラインでは「リンパ浮腫に対する脂肪吸引は安全で有効か」(CQ8)として取り上げられています。術後も圧迫療法の継続が必要です。
まとめ:リンパ浮腫は「管理できる疾患」です
リンパ浮腫は完治が難しい場合もありますが、正しい知識と適切なケアで症状を安定させ、生活の質を維持することは十分に可能です。
大切なのは、早期に気づいて専門の医療機関へ相談することです。とくにがん治療後の方は、術前から定期的に患肢の周径を計測しておくと、小さな変化にも気づきやすくなります。
「むくみが続く」「がん治療後から腕や脚が重い」と感じたら、ぜひ形成外科や専門のリンパ浮腫外来に相談してみてください。
日本形成外科学会より、「患者さんのためのリンパ浮腫外科的治療ガイドブック」が紹介されています。
リンパ浮腫の病態や検査法、保存的治療を解説した上で、リンパ浮腫の外科的治療にはどのような手術法があるのか、それぞれのメリット・デメリット・合併症までを、リンパ浮腫治療専門の医師や看護師が詳しく、丁寧に説明しています。
もう少し実践的な内容を深く理解したい方に寄り添った内容になっていると思います。
よくある質問
参考文献
📄 参考文献・引用文献
- 日本リンパ浮腫学会編. リンパ浮腫診療ガイドライン2018年版 第3版. 金原出版; 2018.
- 日本リンパ浮腫学会編. リンパ浮腫診療ガイドライン2024年版 第4版. 金原出版; 2024.
- 日本形成外科学会編. 形成外科診療ガイドライン2021年版【1】皮膚疾患、頭頸部・顔面疾患、体幹・四肢疾患. 全日本病院出版会; 2021.(リンパ浮腫 CQ1〜CQ10)
- 日本形成外科学会. 患者さんのためのリンパ浮腫外科的治療ガイドブック. 全日本病院出版会; 2025.
- Executive Committee of the International Society of Lymphology. The diagnosis and treatment of peripheral lymphedema: 2023 Consensus Document of the International Society of Lymphology. Lymphology. 2023;56:133-151.
- Becker C, Assouad J, Riquet M, Hidden G. Postmastectomy lymphedema: long-term results following microsurgical lymph node transplantation. Ann Surg. 2006;243(3):313-315. PMID: 16495693.

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