ケロイド・肥厚性瘢痕の赤みはレーザーで改善できる?Vビーム(色素レーザー)の効果と限界

形成外科のこと

「ステロイド注射を続けて盛り上がりはずいぶん落ち着いてきたけど、赤みがなかなか消えない……」

「赤みはステロイド注射で良くなりますか??」

そんな疑問を外来でよく聞きます。ケロイドや肥厚性瘢痕の治療において、隆起はコントロールできても、残存する赤み(紅斑)や毛細血管拡張は別の問題として残ることがあります。

この赤みに対して有効な選択肢として注目されているのが、**Vビーム(色素レーザー、PDL:Pulsed Dye Laser)**です。

形成外科医の立場から、Vビームがなぜ瘢痕の赤みに効くのか、どのような方に向いているのか、そして限界はどこにあるのかを解説します。

✍️ この記事を書いた人

Dr.オーラ

Dr.オーラ

形成外科専門医(日本形成外科学会)|臨床経験15年以上

大学病院で形成外科・美容外科医として勤務。忙しい外来では話しきれないプラスアルファを、科学的根拠にもとづいて発信しています。

なぜ瘢痕に「赤み」が残るのか

ケロイドや活動性の肥厚性瘢痕が赤く見える理由は、瘢痕組織内に毛細血管が過剰に増殖しているからです。

正常な創傷治癒では、修復のために一時的に血管が増え、その後退縮していきます。しかし病的瘢痕では慢性的な炎症が続き、毛細血管が拡張・増殖したまま残存します。これが赤みや熱感・かゆみの原因となります。

ステロイド注射(ケナコルト-A)は、コラーゲンの過剰産生を抑制して隆起を改善するのには優れた効果を発揮します。しかし拡張してしまった毛細血管そのものへの作用は限定的であり、盛り上がりが取れた後も赤みが残ることがあります。

この「残った赤み」に対して、血管を選択的に破壊するアプローチとしてVビームが使われます。

Vビームの作用メカニズム:選択的光熱融解

VビームはPDL(色素レーザー)の一種で、585〜595nmの波長を使用します。

この波長帯は、皮膚の中のオキシヘモグロビン(赤血球中の酸素を運ぶタンパク質)に選択的に吸収されます。レーザー光を吸収した血管が熱によって破壊される一方で、周囲の表皮や正常組織へのダメージは最小限に抑えられます。この原理を**選択的光熱融解(Selective Photothermolysis)**といいます。

血管の破壊によって起こることは、単純な赤み消失にとどまりません。

Vビームが瘢痕に与える2段階の作用

①直接的な血管破壊:拡張した毛細血管を熱で凝固・閉塞させ、赤みを軽減する
②二次的なコラーゲンリモデリング:局所の相対的低酸素状態が生じ、MMP(基質メタロプロテアーゼ)の発現が増加。コラーゲン産生が抑制され、瘢痕の軟化・平坦化が促進される可能性がある

つまりVビームは「赤みを取るレーザー」であるとともに、瘢痕そのものの質を変えるポテンシャルも持っています。ただしこの二次的作用の詳細なメカニズムは、現時点でも完全には解明されていません。

臨床的なエビデンス:何がどれくらい改善するか

肥厚性瘢痕への効果

肥厚性瘢痕に対するVビームの有効性は比較的多く報告されています。

PDLを用いた複数の研究のメタ解析では、肥厚性瘢痕においてVancouver Scar Scaleスコア・瘢痕高・赤みが有意に改善することが確認されています。最適な治療間隔は5〜6週間と示唆されており、複数回の照射を前提とした治療計画が基本となります。

長パルスPDLを用いた臨床試験では、2回の照射(4週間隔)後に赤みが平均65%改善、瘢痕の平坦化が平均41%改善したと報告されています。かゆみ・灼熱感・痛みといった症状も有意に軽減しました。

ケロイドへの効果

ケロイドに対しては、エビデンスの質がやや低下します。ケロイドは肥厚性瘢痕と比較して血管成分が複雑で、コラーゲン構造も異なるため、PDL単独での効果には限界があります。

ただし、ステロイド注射(ケナコルト-A)との組み合わせでは単独よりも優れた結果が示されています。2025年に報告されたRCTでは、PDL+ステロイド注射の併用群がステロイド注射単独群と比較して、Vancouver Scar Scaleの改善・メラニン指数(色調)の改善・患者満足度のいずれも有意に優れていたことが示されました。

Dr.オーラ
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ケナコルトで盛り上がりが落ち着いた後に残る赤みは、毛細血管拡張が主な原因です。この段階でVビームを加えることは、臨床的に理にかなった次のステップです。「注射で十分では?」と思われる方もいますが、赤みへの作用という点では異なるアプローチであり、組み合わせることで相補的な効果が期待できます。

Vビームが特に向いているケース

状況 Vビームの適合性
ステロイド注射後の残存赤み ◎ 最も効果が期待できる場面。毛細血管拡張への直接アプローチ
活動性の赤い肥厚性瘢痕 ○ 赤み・かゆみの改善に有効。ステロイド外用との併用も可
術後早期の予防的照射 △ 一定の効果が示されているが、単回では効果に限界がある
厚みのあるケロイド(1cm超) △〜✕ PDLの光が十分に届きにくく、効果が限定的になりやすい
色素の濃い肌(高Fitzpatrickタイプ) △ 表皮メラニンがレーザーを吸収し、色素異常のリスクが上がる

注意すべき副作用と限界

副作用

Vビームは比較的副作用の少ない治療ですが、以下の点は事前に把握しておく必要があります。

照射直後の紫斑(内出血のような赤紫色の変色) 選択的光熱融解によって毛細血管が破壊される際に生じます。通常7〜10日で自然消失します。

色素沈着(照射部位の黒ずみ) 特に色素の濃い肌では照射後に一時的な色素沈着が生じることがあります。

一時的な発赤・熱感・むくみ 照射直後〜数日間は生じることがありますが、多くは短期間で改善します。

限界

  • **PDL単独ではケロイドへの効果は限定的。**ステロイド注射などとの組み合わせが前提となります
  • **標準化されたプロトコルがない。**照射回数・間隔・フルエンスは施設によって異なり、最適解はまだ確立されていません
  • **高いエビデンスの研究が少ない。**特にケロイドに対しては、RCTの数・質ともにまだ不十分な部分があります
  • **保険適用外(自費診療)。**ケロイド・肥厚性瘢痕へのVビーム照射は保険が適用されず、自費診療となります
Vビームのポイント整理
1 Vビームは585〜595nmの波長で毛細血管を選択的に破壊し、赤みを改善する。二次的にコラーゲンリモデリングも促進される可能性がある
2 肥厚性瘢痕への効果は比較的良好。ケロイドには単独では限定的で、ステロイド注射との併用がより効果的
3 「ステロイド注射で盛り上がりが落ち着いた後の残存赤み」への対応として臨床的に合理的な選択肢。厚みのある瘢痕や色素の濃い肌では効果が限定される
4 自費診療。照射後の紫斑(7〜10日で消失)・色素沈着のリスクを理解したうえで受けることが大切

よくある質問(FAQ)

Q 何回照射すれば効果が出ますか?

A 一般的には3〜6回、5〜6週間ごとの照射が目安です。1回で劇的な変化が出ることは少なく、複数回の継続が基本です。個人差があるため、経過を見ながら照射回数を調整します。

Q 照射後に内出血のような青紫色が出ますが大丈夫ですか?

A これは「紫斑(パープラ)」と呼ばれる正常な反応です。毛細血管が破壊される際に生じるもので、通常7〜10日で自然に消失します。事前に知っておくと安心です。

Q ステロイド注射とVビームは同日に受けられますか?

A 施設や医師の方針によって異なりますが、同日または近い日程での併用が行われることがあります。ステロイド注射で炎症・血管を落ち着かせ、Vビームで残存赤みにアプローチするという組み合わせは理にかなっています。担当医に相談してください。

Q 日焼けした肌でも受けられますか?

A 日焼け直後の肌への照射は避ける必要があります。表皮メラニンがレーザーを吸収してしまい、色素異常や火傷のリスクが高まります。照射前後は日焼け対策をしっかり行ってください。

Q ケロイドの赤みは完全に消えますか?

A 「大幅な改善」は期待できますが、「完全消失」は保証できません。ケロイドの活動性が続いている段階では赤みが再度強くなることもあります。Vビームはあくまでも補助的な治療であり、ステロイド注射などによる根本的なコントロールと組み合わせることが重要です。

まとめ

傷跡の赤みは、周囲から見えやすく、患者さんにとって大きな心理的負担になります。「盛り上がりは取れたのに赤みが消えない」という段階で、Vビームは有効な選択肢のひとつです。

ただしVビームは万能ではありません。効果の期待できる場面・限界・副作用を正しく理解したうえで、形成外科専門医と相談しながら治療計画を立てることをおすすめします。

参考文献

参考文献
1 de las Alas JM, Siripunvarapon AH, Dofitas BL. Pulsed dye laser for the treatment of keloid and hypertrophic scars: a systematic review. Expert Rev Med Devices. 2012;9(6):641-650. PMID: 23249157
2 Vrijman C, et al. Laser therapy for the prevention and treatment of pathologic excessive scars: a systematic review. Arch Dermatol. 2011. PMID: NBK185201
3 Rutnin S, et al. Efficacy of combined 595-nm pulsed dye laser and intralesional corticosteroids versus intralesional corticosteroids alone for treating postmastectomy hypertrophic scars and keloids in transgender men: a randomized controlled trial. J Cosmet Dermatol. 2025. PMID: 40035347
4 Manuskiatti W, Fitzpatrick RE. Treatment response of keloidal and hypertrophic sternotomy scars. Arch Dermatol. 2002;138(9):1149-1155. PMID: 15838209
5 Hultman CS, et al. Pulsed dye laser for the treatment of hypertrophic burn scars: current concepts and future directions. Ann Plast Surg. 2009. PMID: 20022430
6 日本形成外科学会・日本創傷外科学会・日本頭蓋顎顔面外科学会. 形成外科診療ガイドライン 第3巻 創傷疾患(ケロイド・肥厚性瘢痕)2021年版.
👨‍⚕️ この記事の監修者

✍️ この記事を書いた人

Dr.オーラ

Dr.オーラ

形成外科専門医(日本形成外科学会)|臨床経験15年以上

大学病院で形成外科・再建外科医として勤務。大学病院以外にも美容皮膚科やAGAクリニックでの臨床経験も豊富。外科医は「すぐに効果が出る」治療を優先しがちですが、それが患者さんにとって「最適な治療」とは限りません。「日常からできること」を外来で話すには時間が足りません。形成外科のこと・美容医療・スキンケア・AGAなど、外来で話しきれない医学的な本音を科学的根拠にもとづいて発信。商業バイアスなく、読者が自分で判断できる情報を届けることをモットーとしています。

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