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「シャワーを浴びたあと、脱いだ服のわき部分の臭いや黄ばみが気になる」
「この時期になると脇汗でシャツが気になって、服選びが憂鬱になる」
——そんな悩みを抱えながら、誰にも相談できずにいる方は少なくありません。

わきの臭いや汗の問題は、身体的な不快感だけでなく、仕事や人間関係への不安、自信の喪失につながることもあります。
まずは正しい知識を持つことが、解決への第一歩です。
この記事では、わきがの原因や仕組みから、市販薬・クリニック治療・手術まで、さまざまな対処法をわかりやすく整理しています。形成外科医の視点でお伝えします。
わきがとは何か——臭いの正体
わきが(腋臭症)は、わきの下にあるアポクリン汗腺から分泌される汗の成分を、皮膚の常在菌が分解することで独特の臭気を発する状態です。
アポクリン汗腺からの汗には脂質やタンパク質が多く含まれており、グラム陽性菌やコリネバクテリウムなどの菌がこれを分解すると、チオール類(3M3SH:ツンとした臭気)や中鎖脂肪酸(HMHA:クミン様臭気)などの揮発性物質が生じます。わきがの臭いはこれらの混合臭です。
アポクリン汗腺とエクリン汗腺の違い
わきの下には2種類の汗腺が共存しています。この違いを理解することが、治療選択において重要です。
臭いの問題(わきが)はアポクリン汗腺、汗の量の問題(多汗症)はエクリン汗腺が主な原因です。どちらの悩みが強いかによって、有効な治療法が変わります。
わきがは遺伝する?——ABCC11遺伝子との関係
わきがには明確な遺伝的背景があります。
2006年に、16番染色体上のABCC11遺伝子のSNP(一塩基多型)がヒト耳垢の乾湿を決定することが発見されました(Yoshiura K et al., Nat Genet 2006)。アポクリン汗腺の発達がこの遺伝子と深く関連しており、わきが患者の95〜97%が湿性耳垢を持つことが知られています(Nakano M et al., BMC Genet 2009)。
ただし、湿性耳垢の方が全員わきがというわけではなく、湿性耳垢者のうち約77%がわきがであるという報告もあります。
日本人における湿性耳垢の割合は約16%程度です。欧米では湿性耳垢が大多数を占めるため体臭は「生理的なもの」として扱われることが多く、わきがは東アジア圏で特に医療的関心が高い疾患です。
また、アポクリン汗腺は思春期以降にホルモンの影響で活発になります。わきがが思春期ごろから気になりはじめる方が多いのはこのためです。
脇汗が多い(多汗症)とわきがは別の問題
わきがと多汗症は混同されることが多いですが、原因となる汗腺が異なります。
腋窩多汗症(わき多汗症)は、エクリン汗腺からの発汗が過剰になる状態です。精神的な緊張や気温の上昇によって汗が増え、日常生活に支障をきたします。日本人の有病率は約5.75%とされています(Fujimoto T et al., J Dermatol 2013)。
両者は合併することも多く、「臭いと汗の量、両方が気になる」という方も少なくありません。その場合は、それぞれの問題に対応した治療を組み合わせることが必要です。

自分のわきがの程度を知る——重症度の目安
医療機関では「ガーゼテスト」と呼ばれる方法で重症度を判定します。当日無処置の状態でわきにガーゼを挟み、医療者が嗅覚で判定します。
グレード2以上で手術の適応となることが多く、グレード1ではまず保存的治療が選択されます。
セルフチェックとして、以下のような特徴に複数あてはまる方はわきがである可能性があります。
これらに複数当てはまる場合、一度形成外科や皮膚科に相談することをおすすめします。
治療法の全体マップ
わきがと多汗症には、セルフケアからクリニック治療・手術まで幅広い選択肢があります。大きく以下の3つのアプローチに分かれます。
以下に主な治療法を整理します。
セルフケア・市販薬

市販の制汗デオドラント剤はダウンタイムなく手軽に使えます。継続使用が前提となりますが、軽症〜中等症の方や、クリニック治療と並行して使う方に有効です。
主な有効成分については以下の表をご参照ください。
ただし、市販の制汗剤はあくまで「臭いを抑える・汗を一時的に減らす」ものであり、アポクリン汗腺そのものへの作用は限定的です。わきがの根本的な改善を目指す場合は、クリニックでの治療が選択肢になります。
→ 市販品の選び方と具体的な製品については、別記事で詳しく解説しています。
クリニックでの保存的治療
❶抗コリン外用薬(エクロックゲル・ラピフォートワイプ)
多汗症(エクリン汗腺)に対する保険適用の第1選択薬です。
現在2剤が保険適用で処方できます。
- エクロックゲル5%(ソフピロニウム臭化物/科研製薬)— 2020年発売。ゲルタイプで1日1回塗布。患者向け公式サイト →
- ラピフォートワイプ2.5%(グリコピロニウムトシル酸塩水和物/マルホ)— 2022年発売。1回使い切りのワイプタイプ。患者向け公式サイト →
いずれもエクリン汗腺のムスカリンM3受容体に作用してアセチルコリンの働きを阻害し、発汗を抑えます。毎日使用が必要で、やめると効果は戻ります。腋臭症(わきが)への直接の適応はありませんが、発汗量が減ることで臭いが間接的に軽減される可能性があります。
2剤間の直接比較試験は現時点では存在せず、剤形(ゲルかワイプか)や使いやすさで選ぶことになります。
副作用の注意点:塗布後に手で目をこすると散瞳・霧視が起きることがあります。塗布後はすぐに手を洗うことが大切です。閉塞隅角緑内障・前立腺肥大(排尿障害あり)の方は使用できません。
❷塩化アルミニウム外用液
エクリン汗管を物理的に塞いで発汗を抑える薬剤です。保険外で処方されることが多く、20%溶液を院内製剤として用意しているクリニックもあります。抗コリン外用薬より皮膚への刺激がやや強く、アトピー肌の方は接触皮膚炎を起こすことがあります。効果の作用機序が異なるため、エクロックゲルと併用することで効果が高まる場合もあります。
❸ボトックス注射(A型ボツリヌス毒素)
エクリン汗腺の神経伝達を遮断し、数か月間発汗を抑える治療です。アポクリン汗腺にも一部作用するため、わきがの臭いの軽減効果も期待できます。
保険適用について:2012年より「重度原発性腋窩多汗症」に保険適用されており、3割負担で両脇2万円前後が目安です。ただし、保険診療の報酬点数が低く設定されているため実態として赤字になりやすく、保険でのボトックス治療を行っていないクリニックも多いのが現状です。
自費治療について:美容皮膚科・美容外科では自費でボトックス注射を受けられるクリニックが多くあります。韓国製ボトックスなど比較的安価な製剤を使用することで、自費でも両脇2〜3万円台から受けられるケースもあります。
効果の持続は約半年で繰り返し注射が必要ですが、再投与の満足度は初回と同等に高いことが報告されています。
ボトックス注射やミラドライなどのクリニック治療を検討している方は、美容医療の予約サイトキレイパスやくまポンから全国のクリニックを比較・予約できます。
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── 美容医療の入口として ──
クリニックでの機器治療(自費)
ミラドライ
マイクロ波(5.8GHz)を照射して汗腺を熱変性・破壊する機器です。汗量・臭い・腋毛を同時に軽減できます。
※ 薬事承認と保険適用の注意:ミラドライは2018年に本邦で薬事承認を取得していますが、承認の対象は「重度の原発性腋窩多汗症」です。わきが(腋臭症)治療機器としての薬事承認は現時点でありません。また、自費診療のため健康保険は適用されません。
施術者の技量によって効果や合併症リスクに差が出ることが報告されており、実績のあるクリニックを選ぶことが重要です。通常1〜2回の施術で大幅な改善が期待できます。
ビューホット(フラクショナルRF)
36本の細針から真皮〜皮下にラジオ波を照射し、汗腺を破壊する機器です。
※ 国内未承認機器です。薬事承認を取得していないため、自費診療での使用となります。
施術当日から入浴可能でダウンタイムが少ないことが特徴ですが、完全無臭にはできない場合があります。2回以上の施術が必要なケースも約20%あります。
ミラドライ・ビューホットなどの機器治療を検討している方は、キレイパスやくまポンからクリニック検索・比較ができます。

── 美容医療の入口として ──
手術(保険適用)
皮弁法(腋臭症手術)
現時点でわきがに対して最も根治性が高い治療法です。形成外科での保険診療が可能で、腋窩の皮膚を切開してアポクリン汗腺を直視下に剪除します。再発が最も少なく、手術後も長期にわたって改善が維持されます。
術後の注意点として、2日間は肩の安静が必要で、抜糸は術後14日目前後が目安となります。「完全に無臭になる」とは限らず、術後も制汗剤を使ったほうが良い場合もあります。
→ わきが手術について詳しくは、別記事で解説します(鋭意作成中です、少々お待ちください)。
何科を受診すればいい?
一般的に、
・保険適用の手術(皮弁法)は形成外科、
・エクロックゲルやボトックスなどの保険治療は皮膚科・形成外科、
・ミラドライやビューホットなど自費の機器治療は美容皮膚科・美容外科
で受けられます。
まとめ:まずは自分の悩みの「種類」を知ることから
わきがと多汗症は似ているようで、原因となる汗腺が異なります。「臭いが主な悩み」なのか、「汗の量が気になる」のかによって、選ぶべき治療も変わります。
軽症であれば市販の制汗デオドラント剤でも十分な対処ができます。しかし日常生活や人間関係に支障を感じているなら、クリニックへの相談をためらわないでいただきたいと思います。
現在は保険適用の治療から自費の機器治療まで選択肢が広がっており、以前よりずっと受診しやすい環境が整っています。
あなたに合った方法を一緒に探していきましょう。
参考文献
- Yoshiura K, Kinoshita A, Ishida T, et al. A SNP in the ABCC11 gene is the determinant of human earwax type. Nat Genet. 2006;38:324-330.
- Nakano M, Miwa N, Hirano A, et al. A strong association of axillary osmidrosis with the wet earwax type determined by genotyping of the ABCC11 gene. BMC Genet. 2009;10:42.
- Kubomura K, Ogawa R, Sasaki N, et al. Objective Odor Assessment in Patients with Osmidrosis. Plast Reconstr Surg Glob Open. 2022;10:e4622.
- Shin JY, Roh SG, Lee NH, et al. Osmidrosis Treatment Approaches: A Systematic Review and Meta-Analysis. Ann Plast Surg. 2017;78:354-359.
- Sun P, Wang Y, Bi M, et al. The Treatment of Axillary Odor: A Network Meta-Analysis. Med Sci Monit. 2019;25:2735-2744.
- 細川亙ほか. 腋臭症と腋窩多汗症——要因と各種治療法の概略. 形成外科. 2023;66(2):139-144.
- 久保村憲, 桑原大彰. 腋臭症の病態と治療について. 発汗学. 2023;Vol.30特集号:57-63.
- 田邉裕美. 腋臭症の病態と治療. MB Derma. 2021;309:61-66.
- 藤本智子ほか. 原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版. 日皮会誌. 2023;133:3025.
- Fujimoto T, Kawahara K, Yokozeki H. Epidemiological study and consideration of primary focal hyperhidrosis in Japan. J Dermatol. 2013;40:886-890.
- 百澤明, 大河内裕美. ミラドライを用いた腋窩多汗症・腋臭症治療——合併症とその対策. 形成外科. 2023;66(2):179-184.
- 藤田研也. ボトックスを用いた原発性腋窩多汗症治療. 形成外科. 2023;66(2):152-158.
- 大嶋雄一郎. ボツリヌス毒素による多汗症治療. 皮膚科. 2024;6(3):244-249.
- 丸山直樹. ビューホットを用いた腋窩多汗症・腋臭症治療. 形成外科. 2023;66(2):159-169.
- 藤本智子. 抗コリン外用薬を用いた腋窩多汗症治療. 形成外科. 2023;66(2):145-151.
- 日本形成外科学会. 腋臭症. https://jsprs.or.jp/general/disease/sonota/wakiga/


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