危険なホクロのサイン:ABCDEルールと、それだけでは拾いきれない基底細胞癌

ホクロ診療 危険なホクロのサインを解説します 形成外科のこと

前回の記事で、ホクロの多くは良性であるとお伝えしました。とはいえ「じゃあ、うちのこのホクロは大丈夫なの?」という不安が消えるわけではないと思います。特に「最近ちょっと大きくなった気がする」「色が均一じゃない」といった変化に気づいたときは、なおさらです。

専門医が解説します

この記事では、ご自身でチェックできる国際的な指標「ABCDEルール」を紹介します。あわせて、ABCDEルールだけでは見落とされやすい基底細胞癌についても解説します。

POINT
1 「ABCDEルール」って、具体的に何を見ればいいの?
2 ABCDEに当てはまらなければ、絶対に安心と言えるの?
3 自分でセルフチェックするなら、どんな見方をすればいいの?

結論:ABCDEルールは強力な目安、ただし万能ではありません

ABCDEルールは、1985年にアメリカで提唱されて以来、約40年にわたって世界中で使われてきた、悪性黒色腫(メラノーマ)の早期発見のためのセルフチェック指標です。多くの命を救う一助になってきたと考えられています。

一方で、ABCDEルールは主に悪性黒色腫を念頭に作られた指標であるため、基底細胞癌のように異なる特徴を持つ皮膚がんは、この5項目だけでは拾いきれないことがあります。「ABCDEに当てはまらないから完全に安心」と考えるのではなく、複数の視点を持っておくことが大切です。

ABCDEルールの中身

ABCDEルールは、次の5つの英単語の頭文字から成り立っています。医学部医学科の皮膚科の試験で必ずと言っていいほど取り上げられる項目です。

  • A(Asymmetry:非対称性):半分に折ったときに左右の形が合わない
  • B(Border irregularity:境界不整):輪郭がギザギザしている、境界がぼやけている
  • C(Color variegation:色調の多彩性):黒・茶・赤・白・青などの色が混ざっている、色にムラがある
  • D(Diameter:直径):直径6mm以上
  • E(Evolving:経時的変化):大きさ・形・色・症状(かゆみ、出血など)が変化してきている
ABCDEルールを図説します。

これらのうち複数が当てはまる場合は、皮膚科・形成外科への相談を検討する目安になります。なお、近年ではEの「経時的変化」が、Dの「直径」以上に重視される傾向にあるとも言われています。悪性黒色腫の中には、直径6mmに達する前の小さな段階ですでに進行しているケースもあるためです。

「いつもと違うホクロ」を探す視点

ABCDEルールと合わせて知っておくと役立つのが、「アグリーダックリングサイン(ugly duckling sign)」(みにくいアヒルの子)という考え方です。これは、ご自身の体にある他の多くのホクロと比べて、明らかに見た目が違う一つのホクロに注目する、というセルフチェックの視点です。

一つひとつのホクロをABCDEの基準で細かく判定するよりも、「なんとなく、これだけ他と違う」という直感的な違和感の方が、実際には見分けの手がかりになることも報告されています。

アグリーダックリングサインで思いついたのは有名な絵本「きんぎょがにげた」です。みなさんは何を思い浮かべましたか?

ABCDEだけでは拾いきれない:基底細胞癌のサイン

前回の記事でも触れた基底細胞癌は、ABCDEルールが想定する「非対称・多彩な色・急な拡大」といった特徴とは、少し違った現れ方をすることがあります。

基底細胞癌に特徴的とされるサインには、次のようなものがあります。

  • 表面につやのある、蝋(ろう)のような光沢
  • 病変の中を蛇行するように走る細い血管(毛細血管拡張
  • 進行すると中心部がくぼんで潰瘍のようになる
  • 色は黒〜黒褐色のことが多いが、色味が薄いタイプもある
  • 高齢の方の顔面(鼻の周囲、まぶたの近くなど紫外線を浴びやすい部位)にできやすい
基底細胞癌は下瞼や鼻にできやすい皮膚癌です。

基底細胞癌は転移することは稀とされていますが、放置すると周囲の組織に広がっていくため、早期の診断が望まれます。日本皮膚科学会・日本皮膚悪性腫瘍学会の診療ガイドラインでも、こうした皮膚がん全般について、経験を積んだ皮膚科医であっても肉眼だけでの診断精度には限界があるとされており、専門的な機器を使った評価の重要性が示されています。

そして、転移が稀であるからこそ、手術でしっかりと切除すれば根治できる可能性が非常に高い皮膚がんでもあります。

専門医の目にはこう見えている:ダーモスコピーという視点

皮膚科・形成外科の専門診療では、ダーモスコピーという拡大鏡を使い、肉眼では見えない皮膚内部の色素パターンを観察します。たとえば、日光による色素斑(シミ)は毛穴を避けるように色が抜けた模様になり、ホクロは中心が濃く辺縁になだらかに色が薄くなる模様になる、といったように、病変ごとに特徴的なパターンがあることが専門誌でも報告されています。

こうした専門的な所見の積み重ねによって、肉眼だけでは判断が難しいケースでも、より精度の高い評価が可能になります。「セルフチェックで気になったら、まず専門医に見てもらう」という流れが安心につながる理由は、ここにあります。

ご自身でできるセルフチェックの方法

  • 月に一度程度、明るい場所で全身を鏡でチェックする習慣をつける
  • 見えにくい背中・頭皮・足の裏なども、家族に協力してもらうか、鏡を組み合わせて確認する
  • 気になるホクロは、スマートフォンで定期的に写真を撮っておくと、変化に気づきやすくなります
  • 特に、手のひら・足の裏・爪の下にできたホクロは、日本人においても注意が必要とされる部位です

注意点:不安になりすぎないために

ここまで読んで不安になった方もいらっしゃるかもしれませんが、ホクロのほとんどは良性であり、治療の必要がないものがほとんどです。ABCDEルールや今回紹介したサインは、「疑ってかかる」ためのものではなく、「変化に気づいたときに、行動する目安」として持っておいていただくものです。

 

「これって大丈夫でしょうか」と写真を見せてくださる患者さんの多くは、実際には心配のいらないホクロです。それでも、ご自身の感覚で「なんとなく違う」と思ったことは、意外と的を射ていることが少なくありません。セルフチェックで気になる点があれば、遠慮なく専門医にご相談ください。

まとめ:ABCDE+「いつもと違う」の二段構えで

危険なホクロのサインは、ABCDEルールという分かりやすい指標に加えて、「他のホクロと明らかに違う」という直感的な視点、そして基底細胞癌のような別のタイプのサインも知っておくことで、より安心してセルフチェックができるようになります。

次回は、実際にホクロを除去する場合の選択肢——レーザーと手術の違い、保険が適用されるケース・されないケースについて解説します。

参考文献

  1. 日本形成外科学会「色素性母斑(ほくろ・母斑細胞母斑・黒子)」jsprs.or.jp
  2. 日本皮膚科学会・日本皮膚悪性腫瘍学会「がん診療ガイドライン:皮膚悪性腫瘍・基底細胞癌(BCC)」
  3. Friedman RJ, Rigel DS, Kopf AW. Early detection of malignant melanoma: the role of physician examination and self-examination of the skin. CA Cancer J Clin. 1985;35:130-151.
  4. Abbasi NR, Shaw HM, Rigel DS, et al. Early diagnosis of cutaneous melanoma: revisiting the ABCD criteria. JAMA. 2004;292:2771-2776.
  5. Grob JJ, Bonerandi JJ. The “ugly duckling” sign: identification of the common characteristics of nevi in an individual as a basis for melanoma screening. Arch Dermatol. 1998;134(1):103-104.
  6. 外川八英「顔面の黒っぽい扁平病変」Bella Pelle. 2024;9(3):14-18.

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