
※この記事にはPRを含みます。
SNSを見ていると、ときどきこのような投稿を目にします。
それに対して、
と返信がされているのを見かけます。
アロエ。
馬油。
ビタミンEオイル。
昔から傷によいとされてきた軟膏やクリーム。
Before/Afterの写真を見ると、確かに赤く盛り上がっていた傷あとが、1年後にはかなり目立たなくなっていることがあります。
それを見れば、
「自分もやってみようかな」
と思うのは自然なことだと思います。
特に病院を受診したあと、
「今は経過を見ましょう」
と言われてしまったら、なおさらです。
このまま傷あとが残ったらどうしよう。
何かできることはないのか。
いてもたってもいられず、
とSNSで聞きたくなる気持ちもよく分かります。
ただ、形成外科医として傷あとを診ていると、こうした情報には少し注意が必要だと感じています。
なぜなら、
そしてもうひとつ。
SNSで「ケロイド」と呼ばれている傷あとが、そもそも医学的にはケロイドではないことも少なくありません。
今回は、アロエや馬油などを否定する記事ではありません。
傷あとに何かを塗ること自体が悪い、と言いたいわけでもありません。
ただ、
そして、
その両方を知っておいてほしいと思っています。
- まず、「ケロイド」という言葉が広く使われすぎています
- 傷あとは、もともと時間とともに変化します
- 「使ったら良くなった」と「使ったから良くなった」は違います
- SNSの体験談が「嘘」だと言いたいわけではありません
- 軟膏を塗ること自体を否定しているわけではありません
- エビデンスがない=やってはいけない、ではありません
- その前に、傷あと治療でもっと大切なことがあります
- 傷が治るまでの時間は、傷あとにも影響します
- 傷あとケアは、「何を足すか」だけではありません
- 紫外線を避ける
- 摩擦などの余計な刺激を避ける
- 傷にかかる張力を減らす
- アットノンは、アロエや馬油とは少し立ち位置が違います
- アットノン=ケロイド治療薬ではありません
- 傷あとケアでは、シリコンも知っておきたい
- 本当のケロイドなら、市販薬だけで考えない
- 「経過を見る」は「何もしない」ではありません
- Before/Afterを見るとき、「塗ったもの」だけを見ない
- 「それを使わなかった場合」は誰にも分かりません
- 私が気になるのは、民間療法そのものより「盲信すること」です
- 「待つ」ためには、知識が必要です
- 「何もしない」と「適切に待つ」は違います
- きっと、今よりは良くなっていきます
- まとめ:「何を塗るか」だけで、傷あとを考えない
まず、「ケロイド」という言葉が広く使われすぎています
一般には、
しかし医学的には、傷あとが盛り上がっているからといって、すべてがケロイドというわけではありません。
実際には、
肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)
であることも非常に多いのです。
そして今回の話を考えるうえで特に重要なのが、
という点です。
そのため、
「ケロイドが1年できれいになりました」
という投稿を見たときには、
そもそもそれが真正のケロイドだったのか。
一度立ち止まって考える必要があります。
ケロイドと肥厚性瘢痕の違いについては、別の記事で詳しく解説しています。
▶︎ ケロイドと肥厚性瘢痕の違いとは?形成外科医が鑑別のポイントをわかりやすく解説
今回は細かな鑑別についてはそちらに譲り、
という部分を考えていきます。
傷あとは、もともと時間とともに変化します

傷が閉じた瞬間に、傷あとが完成するわけではありません。
むしろ、そこから長い時間をかけて瘢痕は変化していきます。
最初は赤い。
硬い。
少し盛り上がっている。
触ると違和感がある。
ところが数か月、半年、1年と経過すると、
これは、瘢痕の成熟と呼ばれる自然な経過です。
特に肥厚性瘢痕では、この経時的な改善が比較的よくみられます。
だからこそ、
「1年間アロエを塗ったら、こんなにきれいになりました」
というBefore/Afterを見たときには、もうひとつの可能性を考えなければなりません。
という可能性です。
「使ったら良くなった」と「使ったから良くなった」は違います
これは医学ではとても大切な考え方です。
たとえば、
傷ができて、治った
↓
毎日ある軟膏を塗った
↓
1年後に傷あとがきれいになった
という経過があったとします。
このとき、
「その軟膏を使ったら良くなった」
というのは事実です。
しかし、
「その軟膏を使ったから良くなった」
とは、それだけでは証明できません。
いくつもの要素が同時に入っています。
一人のBefore/After写真だけでは、それらを分けることはできません。
SNSの体験談が「嘘」だと言いたいわけではありません
ここは誤解してほしくないところです。
SNSで、
「私はこれを塗ってきれいになりました」
と言っている方が嘘をついているとは思いません。
実際に毎日塗った。
そして1年後にはきれいになった。
その経験自体は本当でしょう。
ただし、
何かを始めたあとに結果がよくなると、人間はどうしても、
「これのおかげだ」
と考えたくなります。
でも、その間には時間が流れています。
身体も変化しています。
環境も変わっています。
その中から一つだけを取り出して原因と決めることは、実は簡単ではありません。
軟膏を塗ること自体を否定しているわけではありません
では、
というと、そういう意味ではありません。
実際、医療の現場でも、やけど後の皮膚や乾燥しやすい部分にヘパリン類似物質を処方することがあります。
保湿することには意味がありますし、乾燥やつっぱり感が改善すれば、それだけでも患者さんにとっては過ごしやすくなります。
ですから、
馬油でも、
アロエでも、
市販の保湿剤でも、
本人が使っていて心地よく、刺激も起きていないのであれば、それでよいと思います。
ただ、一つだけ覚えておいてほしいことがあります。
傷あとがきれいになっていく背景には、塗っているものだけではなく、身体が本来持っている瘢痕の成熟という大きな力があります。
何かを塗りながら、
「これも少し助けになっているかもしれない」
くらいの距離感でいるのが、ちょうどよいのではないかと思います。
エビデンスがない=やってはいけない、ではありません
もうひとつ、医師として大切だと思っていることがあります。
医学では、エビデンスを重視します。
ある治療や製品に本当に効果があるのか。
偶然ではないのか。
他の方法と比べて優れているのか。
それを検証することは、とても大切です。
ただ私は、
とまで考えるのは、少し違うと思っています。
特に、傷あとケアのように比較的リスクの低い場面ではなおさらです。
傷がきちんと閉じたあとに、
それによる害がほとんどなく、本人も納得しているのであれば、
「試してみる」こと自体は、私は十分ありだと思います。
医学的に、
「この成分には傷あとを改善する確かな効果があります」
とまでは言えない。
でも、
そうしたことにも、医療としての意味はあると思っています。
もちろん、感染している傷に自己流のものを塗ったり、刺激の強いものを使ったり、本来必要な治療を遅らせたりするのは別の話です。
ですが、リスクの低い範囲で、
という選択肢は、実際の診療ではあると思います。
大切なのは、
エビデンスがないものを盲信しないこと。
そして同時に、
エビデンスが十分でないという理由だけで、すべてを切り捨てないこと。
そのくらいの柔らかさが、傷あとケアにはちょうどよいのではないでしょうか。
その前に、傷あと治療でもっと大切なことがあります
傷あとが気になると、
という質問になりがちです。
しかし形成外科医として、傷あとについて最初に考えるべきことはそこではありません。
これが最も重要です。
やけどなら、その深さを正しく評価する。
適切な処置をする。
感染を防ぐ。
必要ならデブリードマンや手術を検討する。
切り傷であれば、縫合した方がよい傷なのかを判断する。
開いた傷を不必要に長期間放置しない。
つまり、
ここがスタートです。
傷が治るまでの時間は、傷あとにも影響します
特にやけどでは、治癒までにかかる時間と肥厚性瘢痕の発生が関連することが知られています。
だからこそ、
「傷あとに何を塗るか」
を考える前に、
が大切です。
やけどや深い傷を負った直後から、
「跡を残したくないから、とりあえずアロエを塗っておこう」
と考えるのは、少し順番が違います。
まず必要なのは、創傷そのものの評価と適切な処置です。
傷あとケアは、「何を足すか」だけではありません
傷あとをきれいにしたいと思うと、
という、何かを追加する発想になりがちです。
しかし医学的には、
という考え方も、とても大切です。
傷あと治療は、何か特別なものを足し算するだけではありません。
むしろ、
マイナスになることを避ける。
この発想は覚えておいてよいと思います。
紫外線を避ける
傷あとが赤い時期には、
衣服で覆う。
テープを使う。
露出部であれば日焼け止めを使う。
といった方法で、過度な紫外線を避けることが大切です。
「傷あとを消す魔法のクリーム」はなくても、
傷あとを余計に目立たせる要因を減らす
ことはできます。
摩擦などの余計な刺激を避ける
傷あとが気になるからといって、
何度も触る。
強くこする。
自己流で強いマッサージを続ける。
こうした刺激を加え続ける必要はありません。
「何かしなければ」
と思うほど、触りたくなってしまうものですが、
触らないことがケアになる場面もあります。
傷にかかる張力を減らす
傷あとが常に左右に引っ張られるような場所では、瘢痕が赤く盛り上がりやすくなることがあります。
そのため、手術後などには状況に応じてテーピングを行い、傷にかかる張力を減らすことがあります。
これも、
「何か成分を塗って治す」
のとは違う考え方です。
傷に余計な負担をかけない環境を作る。
これも立派な傷あとケアです。
アットノンは、アロエや馬油とは少し立ち位置が違います
市販の傷あとケア用品の中で、少し立ち位置が違うのが「アットノン」です。
アットノンEXは単なる化粧品ではなく、医薬品です。
有効成分には、
などが含まれています。
なかでもヘパリン類似物質は、医療の現場でも日常的に使用されている成分です。
保険診療で処方されるヒルドイドなどを思い浮かべる方もいるでしょう。
そのため私は、
アットノンを、アロエや馬油などと同じ意味での「民間療法」として扱うのは少し違う
と考えています。
「傷は治ったけれど、傷あとが硬い・つっぱる・乾燥する」
といった場面で、市販でできるケアの一つとして選ぶことには一定の合理性があります。
ただし、ここでも線引きは必要です。
アットノン=ケロイド治療薬ではありません
アットノンに医学的に意味のある有効成分が入っている。
これは事実です。
しかし、
すでに元の傷を越えて増殖しているケロイドを、ヘパリン類似物質を塗るだけで平らにすることは期待できません。
「市販品で傷あとをケアすること」と、
「真正ケロイドを治療すること」は、
分けて考える必要があります。
傷あとケアでは、シリコンも知っておきたい
という選択肢もあります。
これらは一般にも購入できるため、一見すると単なる傷あとグッズのように見えるかもしれません。
しかし、肥厚性瘢痕やケロイドの保存的なケアとして医学的に長く研究されてきた方法です。
ですから、
アロエ、
馬油、
美容オイル、
などと、
シリコンジェルやシート
を同じ「傷あとに塗るもの」として一括りにする必要はありません。
市販でできるケアにも、医学的な根拠の強弱があります。
本当のケロイドなら、市販薬だけで考えない
もし傷あとが、
という場合には、形成外科などで一度診断を受けることをおすすめします。
真正ケロイドであれば、
などを病変に応じて組み合わせて治療します。
「どのクリームを塗れば消えますか?」だけで解決する病態ではありません。
ケロイドと肥厚性瘢痕の治療について詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
▶︎ ケロイドと肥厚性瘢痕の違いとは?形成外科医が鑑別のポイントをわかりやすく解説
「経過を見る」は「何もしない」ではありません
傷が閉じたあと、
赤い。
硬い。
少し盛り上がっている。
そんな傷あとを見ていると、
「このまま残ってしまうのではないか」
と不安になるものです。
病院を受診しても、
「今は経過を見ましょう」
と言われることがあります。
患者さんからすると、
「本当に何もしなくていいの?」
と思うでしょう。
そして家に帰ってSNSを検索すると、
「私は馬油を塗りました」
「このジェルできれいになりました」
「アロエを毎日使ったらケロイドが消えました」
という投稿が出てくる。
何かをしたくなるのは当然だと思います。
ただ、ここで知っておいてほしいのは、
ということです。
傷あとには、時間とともに変化していく時期があります。
赤みが強くなっていないか。
盛り上がりが増えていないか。
傷の範囲を越えて広がっていないか。
痛みや痒みが強くなっていないか。
逆に、
赤みが少しずつ薄くなっているか。
軟らかくなっているか。
平らになってきているか。
そうした変化を見ながら、
必要なら治療を追加する。
自然に改善しているのであれば、そのまま待つ。
これも立派な医学的判断です。
医療では、
になることがあります。
何もしないのではなく、
必要なことをしたうえで、身体が傷あとを成熟させていく時間を待っている。
そう考えてもらうとよいと思います。
Before/Afterを見るとき、「塗ったもの」だけを見ない
SNSのBefore/After写真には、とても強い説得力があります。
写真そのものは嘘ではありません。
本当にきれいになっているのだと思います。
しかし、BeforeとAfterの間には、
半年、1年という時間
も流れています。
「1年間このクリームを塗りました」
と書いてあれば、どうしても「このクリーム」に目がいきます。
でも、同じくらい注目してほしいのが、
「1年間」
という部分です。
瘢痕が成熟するには、その時間が非常に大きな意味を持っています。
Before/Afterを見るときには、
「それを使わなかった場合」は誰にも分かりません
ある軟膏を1年間使って、傷あとがきれいになった。
では、その人が軟膏を使わずに1年間過ごしたらどうなっていたのでしょうか。
同じくらいきれいになったのかもしれません。
少し悪かったのかもしれません。
もっときれいになった可能性すらあります。
しかし、その世界を見ることはできません。
だからこそ医学では、多くの人を比較して治療効果を調べます。
一人の成功体験はとても参考になります。
ただ、
それくらいの距離感で見るのがよいと思います。
私が気になるのは、民間療法そのものより「盲信すること」です
正直なところ、
傷が完全に治ったあとに、
アロエを塗った。
馬油を塗った。
ということ自体に、私はそこまで大きな問題を感じません。
刺激がなく、本人が納得して使っているのであれば、それでよいと思います。
むしろ私が気になるのは、
不安になったときに、一つの成功体験を絶対的な答えだと思ってしまうこと
です。
病院に行った。
専門家に診てもらった。
そして、
「今は待ちましょう」
と言われた。
それでも不安だからSNSで答えを探す。
そこで、
「絶対これがいい」
という言葉を見つける。
すると、そちらの方が安心できる。
その気持ちはよく分かります。
でも、医療には、
はっきりした答えが出ない時間
もあります。
「待つ」ためには、知識が必要です
何も知らずに待つのは不安です。
「本当にこれでいいのかな」
と毎日考えてしまいます。
でも、
そう知っていれば、
「今すぐ何とかしなければ」
という気持ちは少し和らぐかもしれません。
だから私は、傷あと治療には、
だと思っています。
「何もしない」と「適切に待つ」は違います
必要な診察を受ける。
必要な処置を受ける。
傷をできるだけ早く治す。
必要なら保湿する。
紫外線を避ける。
余計な摩擦を避ける。
傷に強い張力をかけない。
悪化していないかを見る。
そして、身体が傷あとを成熟させていくのを待つ。
これは決して放置ではありません。
適切に待っているのです。
医療では、
「今は追加の治療をしない」
という選択が、その時点では一番よいこともあります。
きっと、今よりは良くなっていきます
傷あとが赤く、硬く、目立つ時期には、
「このままずっと残るのではないか」
と思ってしまいます。
しかし、多くの傷あとにはまだ変化する時間があります。
もちろん、すべての傷あとが完全に消えるわけではありません。
真正ケロイドのように、自然経過だけでは改善しにくいものもあります。
ただ、
今見えている傷あとが、そのまま完成形とは限りません。
必要な治療を受ける。
必要なケアをする。
紫外線や摩擦など、余計なマイナスを減らす。
そして少し時間をあげる。
馬油を塗っていてもいい。
アロエを使っていてもいい。
ヘパリン類似物質を使っていてもいい。
ただ、
身体が治っていく力と、時間の経過も一緒に味方につけてください。
まとめ:「何を塗るか」だけで、傷あとを考えない
傷あとが残るかもしれない。
そう思うと不安になります。
何かしたくなる。
検索したくなる。
「私はこれで治りました」
という情報に惹かれる。
その気持ちはよく分かります。
でも、形成外科医としてまず伝えたいのは、
傷あと対策の第一歩は、傷そのものを適切に、できるだけ早く治すこと
です。
そして傷が閉じたあとには、
紫外線を避ける。
余計な摩擦を避ける。
必要に応じて保湿する。
傷にかかる負担を減らす。
こうした、
悪化させる要因を一つずつ減らしていくこと
にも意味があります。
アロエや馬油を使ってはいけない、と言いたいわけではありません。
使っていて調子がよければ、それでよいと思います。
アットノンのように、医薬品として有効成分を含む市販薬もあります。
シリコンのように、医学的に研究されてきた傷あとケアもあります。
大切なのは、
一つの方法だけを盲信しないこと。
そして、
身体が傷あとを良くしていく時間を待てるだけの知識を持つこと。
Before/Afterの間にあるのは、使った軟膏だけではありません。
そこには、半年、1年と身体が傷を治してきた時間があります。
医学的にやるべきことをやったら、
あとは少し待ってみてください。
きっと、今よりは落ち着いていく傷あともたくさんあります。
焦らず、
でも放置はせず、
「今、この傷に本当に必要なことは何なのか」
を考えながら付き合っていく。
それが、傷あと治療とのちょうどよい距離感なのではないかと思います。

コメント