治療が必要かもしれないと言われたら いちご状血管腫の治療法は?プロプラノロール内服とレーザーの選び方

形成外科のこと

前の記事では、乳児血管腫(いちご状血管腫)で受診を考えたほうがよいタイミングについてお伝えしました。実際に医師から「治療を検討しましょう」と言われると、「具体的にどんな治療をするの?」「赤ちゃんに負担はないの?」と、新たな不安が出てくるかと思います。

この記事では、乳児血管腫の治療として実際に行われている方法と、それぞれの特徴、知っておいていただきたい注意点について解説します。

治療法は一つではありません

乳児血管腫の治療として、現在主に行われているのはプロプラノロール内服療法色素レーザー療法の2つです。どちらにも、それぞれの強みと注意点があり、実は診療科によって「どちらを治療の軸にするか」という考え方に違いがある分野でもあります。

プロプラノロールは、本来心臓や血圧に関わる病気に使われてきた薬(ベータ受容体遮断薬、通称ベータブロッカー)で、乳児血管腫の増大を抑え、縮小を促す効果が確認されており、ガイドライン上もエビデンスの確かな治療法として位置づけられています。一方で、全身に作用する薬であるため、副反応のリスクも伴います。

色素レーザーは、プロプラノロールが登場する以前から行われてきた、形成外科領域で実績の長い治療法です。

乳児血管腫の多くは、機能的な問題よりも整容面(見た目)の問題が中心です。そう考えると、「全身に作用する薬を使うかどうか」は慎重に判断すべき場面が多く、形成外科の実臨床では、色素レーザーを治療の軸とすることが多いというのが、私自身の立場です。もちろん、機能的なリスクが高い場合や、レーザーでの対応が難しい場合には、内服療法が適した選択になることもあります。どちらを選ぶかは、血管腫の状態だけでなく、診ている医師の専門領域や考え方によっても変わってくる、というのが実際のところです。

レーザー治療と内服治療をした際の変化のイメージをグラフで表現しています。
この記事の小まとめ
1
主な治療法はプロプラノロール内服と色素レーザーの2つ
2
どちらを軸にするかは、医師の専門や考え方によって異なる
3
色素レーザーは実施できる医療機関が限られる点には注意が必要

色素レーザーという選択肢

色素レーザーは、血管腫の表面に作用するレーザー治療で、プロプラノロールが登場する以前から行われてきた、形成外科領域で実績の長い治療法です。先ほどお伝えしたとおり、機能的なリスクが高くない多くのケースでは、こちらを治療の軸とすることが少なくありません。

レーザー治療には、大きく2つの役割があると考えられています。一つは、増殖期のうちに行うことで、血管腫がこれ以上大きくなる勢いを抑える目的、もう一つは、退縮期に入った後、その退縮を少しでもくする目的です。レーザーは皮膚の比較的浅い部分にしか届かないため、深いところにある血管腫そのものを縮小させる力は限られていますが、表面の赤みに対しては効果が期待できます。

レーザー治療は1回で終わるものではなく、数回〜複数回に分けて行うことが一般的です。間隔や回数は血管腫の状態や、保険診療か自費診療かによっても異なるため、通っているクリニックでの方針を確認していただくのが確実です。

レーザー治療の1例
コラム:色素レーザーが受けられる場所について
色素レーザーの治療機器は、どの病院やクリニックにも置かれているわけではなく、大学病院や、血管腫の診療に力を入れている特定の医療機関に限られているのが実情です。そのため、お住まいの地域によっては、通院にある程度の距離や時間がかかってしまうこともあります。お近くで対応できる医療機関が見つからない場合は、内服療法を含めた他の選択肢についても、主治医と一緒に検討していただくのがよいかと思います。

プロプラノロール内服という選択肢

機能的なリスクが高い場合や、レーザーでの対応が難しい場合、お住まいの地域で色素レーザーを受けられる医療機関が見つからない場合などには、プロプラノロール内服療法が選択されることもあります。

瞼にできて目を塞いでいる。(提供:マルホ株式会社)

まぶたの周りのいちご状血管腫は、視界を塞ぐため早期の治療介入が必要です。レーザー治療は効果が徐々に出ることや、眼球保護の観点から適応とはなりにくく、一般的にはこのような状況ではプロプラのロールの使用が推奨されます。

日本では2016年に保険適用となり、それ以降、乳児血管腫に対する治療の選択肢の一つとして浸透してきました。ガイドライン上は、エビデンスの確かな治療法として位置づけられています。

開始と終了のタイミングについては、ガイドラインでは生後6ヶ月未満で治療を開始すると、より高い効果が期待できるとされています。これは、血管腫の増殖が活発な時期に薬を使うことで、その後の増大をしっかり抑えられるためと考えられています。終了のタイミングについては、生後12〜15ヶ月未満の間に治療を終えると、治療をやめた後に血管腫が再び大きくなってしまうリスクが低くなる可能性があるとされ、6ヶ月間程度の内服が一つの目安とされています

ただし、これは内服療法を行う場合の目安であり、すべてのお子さんに内服が必要というわけではありません。「いつ始めて、いつ終わるか」は、お子さんの月齢や血管腫の状態、そして治療方針を踏まえて、医師が個別に判断していくことになります。

プロプラノロール内服で気をつけたいこと

プロプラノロールはベータブロッカーという種類の薬で、本来は心臓や血圧に作用する薬です。そのため、乳児血管腫に対して使う場合にも、全身への作用に注意が必要です。エビデンスがしっかりしている治療法である一方で、この全身性の副反応があることが、内服を慎重に位置づける理由の一つでもあります。

報告されている副作用としては、血圧の低下、脈拍が遅くなること(徐脈)、低血糖、睡眠への影響、消化器症状などが挙げられています。特に月齢が低い赤ちゃんや、体重が小さい赤ちゃんでは、こうした副作用が起こりやすいとされており、治療を始める際には医師の指示のもと、慎重に経過を見ていく必要があります。

コラム:内服中、他の病院にかかるときの注意
プロプラノロールを内服しているお子さんが、発熱や嘔吐・下痢などで小児科を受診する場面もあると思います。このとき、ベータブロッカーには脈拍を抑える作用があるため、本来であれば脱水や体調不良のサインとして現れるはずの脈拍の変化が、薬の影響でわかりにくくなる可能性があります。体調を崩して別の医療機関を受診する際には、プロプラノロールを内服中であることを必ず伝えていただくことをおすすめします。お薬手帳の提示も助けになります。

内服中は、自己判断で量を増やしたり、急にやめたりせず、必ず指示された通りに服用を続け、体調の変化があれば早めに相談していただくことが大切です。

上のグラフにもあるように、レーザーに比べて内服治療の方が効果が早く出る印象があります。しかし、全身への影響もあるためその適応は慎重にあるべきと考えています。メリットばかりに目を向けずしっかりとデメリットにも目を向けて担当医師とよく相談した上で冷静な判断をしてください。

治療後の見た目について

Q治療をすれば、跡は全く残らないの?
A治療によって変化を抑えられても、跡が全く残らないと保証されるわけではありません。特に血管腫が大きかった場合や、潰瘍化を経験した場合には、皮膚のたるみや色味の違いが残ることがあります。気になる場合は、お子さんが成長した後に、形成外科で外科的な処置(傷跡を整える手術など)を相談することも選択肢の一つです。

潰瘍化している場合の治療

前の記事でも触れましたが、血管腫の表面が潰瘍化している場合には、創傷被覆材を使った保護が行われます。潰瘍化を伴うケースでは、プロプラノロール内服による治療を急いだほうがよいと判断されることも多く、ガイドラインでも潰瘍化への対応として薦められています。

治療を続ける中で大切にしたいこと

乳児血管腫の治療は、多くの場合数ヶ月から1年程度にわたって続いていきます。その間、効果がすぐに目に見えないことに焦りを感じたり、副作用への不安を感じたりすることもあるかと思います。

大切なのは、自己判断で治療を中断したり、量を調整したりせず、気になることがあれば都度医師に相談しながら進めていくことです。内服中の体調管理や、他院を受診する際の情報共有も、治療を安全に進めるための大切なポイントです。

まとめ

乳児血管腫の治療には、色素レーザーとプロプラノロール内服という2つの選択肢があり、どちらを軸にするかは、血管腫の状態や、診ている医師の専門領域・考え方によって異なります。多くは整容面の問題が中心であることを踏まえると、全身に作用する内服薬は機能的なリスクが高い場合などに限定し、色素レーザーを軸に考える、というのが形成外科領域での一つの立場です。一方で、色素レーザーは実施できる医療機関が限られるため、お住まいの地域によっては選択が難しい場合もあります。内服を行う場合は、生後6ヶ月未満での開始、12〜15ヶ月未満での終了が一つの目安とされており、血圧低下や徐脈などの副作用に注意しながら進めていきます。

「内服薬」と「レーザー」、どちらが正しいかという話ではなく、それぞれに強みと注意点があり、医師によって考え方が分かれる領域だということを知っておいていただけたらと思います。大切なのは、今かかっている医師がどちらの方針で考えているのかを理解し、納得した上で治療を選んでいただくことです。気になる点があれば、どうして今の治療法を勧めているのか、遠慮なく質問してみてください。

提供:マルホ株式会社

参考文献

  1. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「難治性血管腫・脈管奇形・血管奇形・リンパ管奇形・リンパ管腫症および関連疾患についての調査研究班」. 血管腫・脈管奇形・血管奇形・リンパ管奇形・リンパ管腫症 診療ガイドライン2022(第3版). 2023.

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