わきが手術(皮弁法)とは|保険適用・費用・術後の経過を形成外科医が解説

形成外科のこと

市販の制汗剤クリニックの塗り薬ボトックス注射ミラドライ

——さまざまな選択肢を調べてきた方が最終的にたどり着くのが、「手術で根本的に治したい」という思いです。

わきが手術(皮弁法)は、現時点でわきがに対して最も根治性が高い治療法です。保険診療でできる確立された術式であり、形成外科では日常的に行われています。

この記事では、形成外科医としてわきが手術を実際に行っている立場から、術式の仕組み・費用・術後の経過・合併症について解説します。

手術を検討する前に|自分は本当にわきがか?

手術の前に必ず確認しておきたいことがあります。それは、「本当にわきがなのかどうか」です。

わきがの悩みを持って受診される方の中に、自己臭恐怖症(olfactory reference syndrome)の方が一定数いらっしゃいます。自己臭恐怖症とは、客観的には臭いがないか軽微であるにもかかわらず、自分が強い臭いを発していると強く信じてしまう状態です。

手術を行っても自己臭恐怖症は改善しません。むしろ手術後に「まだ臭う」という訴えが続き、患者さんも術者も困惑することになります。

重症度の確認(ガーゼテスト)

医療機関では「ガーゼテスト」で重症度を客観的に判定します。当日無処置の状態でわきにガーゼを挟み、医療者が嗅覚で判定します。

グレード 臭いの程度 治療の目安
0 臭わない わきがなし
1 弱い。注意深く嗅げばわかる まず保存的治療
2 やや強い。鼻先に近づければはっきりわかる 手術適応の目安
3 強い。鼻先から少し離してもわかる 手術適応
4 非常に強い。手に持っただけでわかる 手術適応(重症)

グレード2以上が手術適応の目安です。グレード1以下では保存的治療を先に試みます。

わきがの診断は主観に依存しがちな部分があります。「第三者から臭いを指摘されたことがある」「家族に同様の悩みがある」「湿性耳垢である」といった客観的な情報が重要な判断材料になります。自己申告だけで手術適応を判断することは避け、複数のスタッフによる評価が理想的です。

わきが手術(皮弁法)とは

提供:マルホ株式会社

皮弁法(反転剪除法)は、腋窩の皮膚を切開して内側に反転させ、直視下でアポクリン汗腺を剪除(切り取る)する術式です。

アポクリン汗腺は真皮直下の皮下に存在しており、皮膚を切開して反転させることで汗腺を目で見ながら確実に取り除くことができます。この「目視下での確実な剪除」こそが、ミラドライやボトックスと比べて根治性が最も高い理由です(久保村憲ほか, 発汗学 2023)。

切開線は1本か2本か

皮弁法の術式には、切開線の数によって大きく2種類あります。

僕自身は二切開線法(平行切開法)を選択しています。2本の切開線を設けることで、有毛部の端まで皮弁を確実に反転でき、より広い範囲のアポクリン汗腺を直視下に剪除できます。また皮弁の血流を温存しながら施術しやすい点も利点です。一方、切開線が2本になることで傷は増えますが、いずれも腋窩皺に沿って設計するため、術後の瘢痕は目立ちにくい部位に収まります。

「合併症を最小限に、効果を最大限にを考えると平行切開法が良いと考えています。

他の治療との比較

ミラドライ ボトックス注射 手術(皮弁法)
切開の有無 なし なし(注射のみ) あり
効果の持続 永続的(汗腺破壊) 4〜9か月で消失 永続的(根治)
繰り返しの必要 原則1〜2回 半年ごとに繰り返し 原則1回
ダウンタイム 当日〜翌日から通常生活可 ほぼなし 2週間(安静・抜糸)
わきが根治性 中程度 △ 間接的 △〜× 最も高い ◎
保険適用 なし(自費) 重症なら保険適用 保険適用あり
費用目安(両脇) 10〜20万円台 保険:約2万円
自費:2〜5万円台
保険:約5〜10万円前後
(施設により異なる)

保険適用と費用

保険適用の条件

わきが手術(皮弁法)は健康保険が適用されます。診断名は「腋臭症」で、ガーゼテストでグレード2以上が手術適応の目安です。

保険適用の条件

1

診断名が「腋臭症」であること

2

ガーゼテストでグレード2以上

3

思春期以降(成長期終了後)が望ましい

費用目安(3割負担)

片側の場合

約3〜6万円前後

両側同時の場合

約5〜10万円前後

※施設・入院・麻酔方法により異なります。事前に受診先に確認してください。

手術の実際

術前準備

  • 手術当日はわきの剃毛をしておくと施術がしやすくなります(必須ではありません)
  • 術後2日間は肩関節の安静が必要なため、仕事や予定の調整が必要です
  • 両側同時か片側ずつかは医師と相談のうえ決定します
  • 日帰り手術も可能ですし、入院して全身麻酔での対応も可能な病院もあります

手術の流れ

一般的な手術の流れです。
圧迫固定は、ガーゼとテープで行うことが多いですが、医師によってはタイオーバー固定という糸でガーゼを結びつけるような圧迫方法を用います。

STEP 1

デザイン

腋毛の生えている有毛部を手術範囲として設定。腋窩皺に平行に切開線をデザイン。

STEP 2

局所麻酔

エピネフリン含有キシロカインを希釈して局所麻酔を行う。

STEP 3

皮弁挙上・剪除

皮膚を切開・反転させ、真皮下血管網を可能な限り温存するようにアポクリン汗腺を直視下に剪除。

STEP 4

閉創・ドレーン留置

止血後、アンカリング縫合→ドレーン留置→真皮縫合→皮膚縫合。圧迫固定を行い終了。

術後の経過

術後の安静度や処置に関しての一例です。

時期 状態・できること
術当日 圧迫固定を継続。肩関節を動かさないよう安静。
術後2日目 ドレーン抜去。再度ドレッシング。デスクワーク程度なら可。
術後7日目 圧迫解除。シャワー・創部洗浄が可能に。上肢の可動域は肩関節外転90度まで。
術後14日目 抜糸。創部の状態を確認。
術後1か月 瘢痕の状態を確認。軽い運動から再開可能。
術後1か月〜 腕を使う運動・重労働が可能に。瘢痕・硬さは数か月かけて軽快していきます。

合併症

どの術式を選んでも起こりうる合併症として以下があります(田邉裕美, MB Derma 2021;久保村憲ほか, 発汗学 2023)。

血腫:最も頻度の高い合併症。術中の確実な止血と術後の安静が予防の鍵です。血腫が確認された場合は早期除去が必要です。

創離開・皮膚壊死:皮弁を薄くしすぎた場合や血腫を放置した場合に生じます。部分的なことがほとんどで、軟膏処置による保存的治癒を待ちます。

肥厚性瘢痕・ケロイド:創治癒に日数がかかった場合やケロイド体質の方に生じます。

臭気の再発(取り残し):アポクリン汗腺の剪除が不十分な場合に起こります。確実な剪除が肝要です。

面皰(にきび)の出現:皮脂腺を傷つけた場合に生じることがあります。

「手術すれば完全に無臭になる」わけではありません。皮膚の血流を温存しながら剪除するため、すべてのアポクリン汗腺を取り除くことは構造上難しく、術後も制汗剤を使ったほうがよい場合があります。術前にこの点を正直にお伝えすることが大切だと考えています。

よくある質問

Q. 手術は痛いですか?

局所麻酔で行うため、手術中の痛みはほぼありません。麻酔の注射時に少し痛みを感じる程度です。術後は鈍痛がありますが、鎮痛薬でコントロールできる範囲です。

Q. 仕事はいつから復帰できますか?

デスクワークであれば術後3〜5日程度から可能な方が多いです。腕を使う仕事や運動は術後1か月以降が目安です。

Q. 両側を同時に手術できますか?

可能です。局所麻酔での両側同時手術が一般的に行われています。しかし、両手が使いにくくなるので前後の予定の調整が必要です。

Q. 再発することはありますか?

アポクリン汗腺を確実に剪除できれば再発は少ない術式です。ただし思春期成長期に手術を行った場合は、残存した汗腺が発達して再発するリスクがあります。思春期以降(一般的に高校生以上)が手術の適切な時期です。

Q. ミラドライとどちらがいいですか?

「傷跡を残したくない・仕事を休めない」ならミラドライ、「費用を抑えたい・確実に根治したい」なら手術が向いています。それぞれメリット・デメリットがあるため、担当医とよく相談することをおすすめします。
ミラドライに関する詳細はこちらも確認ください。

まとめ

  • わきが手術(皮弁法)は現在最も根治性の高いわきが治療
  • 手術前にガーゼテストで重症度を客観的に確認し、自己臭恐怖症との鑑別が重要
  • 切開線は**1本(一切開線法)と2本(二切開線法)**があり、二切開の方がより広い範囲の剪除が可能
  • 保険適用で受けられる(診断名:腋臭症、グレード2以上)
  • 術後2日間は肩の安静が必要、抜糸は14日目
  • 「完全に無臭になるとは限らない」ことを理解したうえで臨むことが大切

→ わきが・脇汗の治療法全体を見たい方はこちら:わきがの原因と治し方|完全ガイド

参考文献

  1. 久保村憲, 桑原大彰. 腋臭症の病態と治療について. 発汗学. 2023;Vol.30特集号:57-63.
  2. 田邉裕美. 腋臭症の病態と治療. MB Derma. 2021;309:61-66.
  3. 細川亙ほか. 腋臭症と腋窩多汗症——要因と各種治療法の概略. 形成外科. 2023;66(2):139-144.
  4. Shin JY, Roh SG, Lee NH, et al. Osmidrosis Treatment Approaches: A Systematic Review and Meta-Analysis. Ann Plast Surg. 2017;78:354-359.
  5. Sun P, Wang Y, Bi M, et al. The Treatment of Axillary Odor: A Network Meta-Analysis. Med Sci Monit. 2019;25:2735-2744.
  6. 日本形成外科学会. 腋臭症. https://jsprs.or.jp/general/disease/sonota/wakiga/

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