4
バリア機能を整える保湿。肝斑病変部ではバリア機能が低下している。低刺激の保湿剤で皮膚の防御力を維持する

Dr.オーラ
これを直接証明したRCTは現時点では存在しません。しかしプレトリートメントを行った方とそうでない方では、治療経過に明らかな差があります。臨床的な実感として正直にお伝えします。
では、背景の炎症をコントロールするために何ができるのでしょうか。
摩擦をゼロにする
シミ治療において、見落とされがちで最も重要な生活習慣の改善が「摩擦をなくす」ことです。
強い洗顔・タオルでのゴシゴシ拭き取り・コットンによるパッティング——これらはすべて、皮膚に対する機械的な刺激となり、メラノサイトを活性化させます。特に肝斑がある方では、摩擦が色素沈着の主要な悪化因子の一つとされています。
洗顔は泡で包むように優しく、タオルは押さえるだけ。コットンは使わず、手のひらで化粧水を馴染ませる。これだけで、皮膚の慢性炎症が軽減されることがあります。
紫外線対策を徹底する
どのタイプのシミであっても、紫外線はメラノサイトを活性化させる最大の外因です。治療中はもちろん、治療後のPIHが残っている時期の紫外線曝露は、色素沈着を長引かせます。
日焼け止めは、治療をしていない日も含めて毎日塗ること。これは「効果が出るかもしれない」レベルではなく、治療効果を維持するための必須条件です。
トラネキサム酸内服の役割
シミ・肝斑治療においてトラネキサム酸の内服が処方されることがあります。「なぜ止血薬を肌に飲むのか」と疑問に思う方も多いですが、その役割は色素沈着の抑制にあります。
トラネキサム酸は、メラノサイトを活性化させる情報伝達経路を抑制するとともに、肝斑に見られる血管増生・炎症性サイトカインの産生も抑制することが示されています。つまり、色素の抑制と炎症のコントロール、両方に働きかける薬剤です。
特に肝斑では、トラネキサム酸内服が治療の基本中の基本とされており、複数の臨床試験でその有効性が示されています。ただし止血薬であるため、血栓・動脈硬化・梗塞病変の既往がある方は事前に医師への相談が必要です。
保湿・バリア機能のケア
肝斑の病変部では、角層のバリア機能が低下していることが研究で示されています。バリア機能が低下した状態では、外からの刺激を受けやすくなり、メラノサイトが活性化しやすくなります。
刺激の少ない保湿剤で肌のバリアを整えることは、地味に見えて治療効果を支える重要な基盤です。
日頃のケアが治療効率を上げる
ここで正直にお伝えします。
「日頃のケアが治療効率をグッと上げる」——これを直接証明したRCT(ランダム化比較試験)は、現時点では存在しません。
しかし、治療前にトラネキサム酸内服・外用・スキンケア指導などのプレトリートメントを2〜3ヶ月行ってから機器治療に進むことで、PIHリスクが下がり治療効果が高まるという臨床報告は複数あります。また、形成外科・皮膚科の専門家の多くが、この順番を実践しています。
Dr.オーラとして、臨床現場でも同じことを実感しています。プレトリートメントをしっかり行った患者さんと、行わずにすぐレーザーを始めた患者さんとでは、治療経過に明らかな差があります。これはエビデンスとして確立されたものではありませんが、臨床的な実感として正直にお伝えします。
「丁寧な準備が、治療を最短にする」——これがシミ治療の本質だと考えています。
治療のゴールを正しく設定する
解体メモ
ゴールは「完治」ではなく「コントロール」
1
老人性色素斑は治療後も新しいシミが生じる。肝斑は治療を中断すると再燃しやすい。再発は治療の失敗ではない
2
受診時に聞くべきは「何回で消えますか」だけでなく、「再発した場合は」「日頃のケアは」という視点も重要
3
「良い状態を長く維持する」という長期的な視点が、シミ治療の本質的なゴール
最後に、最も重要なことをお伝えします。
シミ治療のゴールは「完治」ではなく「コントロール」です。
老人性色素斑は、治療で改善しても、紫外線曝露が続けば新しいシミが生じます。肝斑は、治療で色調が改善しても、トラネキサム酸を中止したり紫外線を浴びたりすると再燃することが多いです。脂漏性角化症も、レーザーで除去しても再発することがあります。
これは治療の失敗ではありません。皮膚の老化・ホルモン・紫外線という根本的な要因がある限り、色素斑は繰り返す可能性があります。だからこそ、「治して終わり」ではなく「良い状態を維持する」という長期的な視点が必要です。
クリニックを受診する際は、「何回で消えますか」という質問とともに、「再発した場合はどうすればいいですか」「日頃のケアで注意することは何ですか」という質問もしてみてください。この視点を持っているかどうかで、治療への向き合い方が変わります。
まとめ:治療の「順番」が結果を決める
KAITAI MEMO
シミの解体新書・後編|まとめ
1
シミは1回で消えない。PIHは当たり前に起きる合併症であり、事前に知っておくことで焦らずに対処できる
2
治療が効かない理由は「診断の誤り」「背景の炎症」「プレトリートメントの欠如」の3つ。機器より順番が大切
3
摩擦ゼロ・毎日の遮光・トラネキサム酸・保湿の4本柱が、治療効率を上げる土台になる
4
「丁寧な準備が、治療を最短にする」。プレトリートメント→機器治療→維持ケアという流れが治療の正しい順番
5
ゴールは「完治」ではなく「コントロール」。再発を前提に、長期的に良い状態を維持する視点を持つ

Dr.オーラ
「なぜ良くならないのか」の答えは、多くの場合、機器の問題ではなく順番の問題です。治療の前に土台を整える。これだけで、同じ治療の結果が大きく変わります。次の「肝斑の解体新書」では、この中で最も難しいシミの代表格・肝斑を深く解体します。
シミ治療で大切なのは、機器の選択よりも前に、正しい順番で治療に臨むことです。
まず正確な診断を受ける。次に背景の炎症をコントロールし、プレトリートメントで皮膚の状態を整える。そのうえで適切な機器治療を選択する。治療後も日頃のケアを継続して、良い状態を維持する。
この流れを理解した上でクリニックを受診することが、「治療したのに良くならない」という状況を防ぐ最も確実な方法です。
次の「肝斑の解体新書」では、シミ治療の中で最も難しい肝斑に焦点を当てます。なぜ肝斑はこれほど難治なのか、炎症という視点から深く解体していきます。
参考文献
REFERENCES
参考文献
1
山本晴代. 美肌になるためのシミ治療. MB Derma. 2025;364:23-31.
2
山下理絵, 近藤謙司. シミ(加齢性混在型色素斑)の治療. 形成外科. 2024;67(3):233-242.
3
山下理絵, 近藤謙司. シミ治療の進歩とACPという考え方. Bella Pelle. 2025;10(3):30-35.
4
秋田浩孝. 肝斑診療②—私はこうしている—. MB Derma. 2024;353:69-75.
5
船坂陽子. 妊婦の肝斑とその対策. 皮膚科. 2024;6(6):588-592.
6
角田加奈子. 美肌になるための赤み診療. MB Derma. 2025;364:33-43.
👨⚕️ この記事の監修者
✍️ この記事を書いた人
Dr.オーラ
形成外科専門医(日本形成外科学会)|臨床経験15年以上
大学病院で形成外科・再建外科医として勤務。大学病院以外にも美容皮膚科やAGAクリニックでの臨床経験も豊富。外科医は「すぐに効果が出る」治療を優先しがちですが、それが患者さんにとって「最適な治療」とは限りません。「日常からできること」を外来で話すには時間が足りません。形成外科のこと・美容医療・スキンケア・AGAなど、外来で話しきれない医学的な本音を科学的根拠にもとづいて発信。商業バイアスなく、読者が自分で判断できる情報を届けることをモットーとしています。
▶ Fortuna Auraについて
コメント